fc2ブログ
2024 02 ≪  03月 12345678910111213141516171819202122232425262728293031  ≫ 2024 04
半落ち
2006/11/21(Tue)
作者:横山秀夫

 最後に「完落ち」したのは梶ではなく、私だったのかもしれない。
 梶と私が「完落ち」するまで実に10ページにも満たないくせに、この10ページには生の芽吹きを感じた。
 『半落ち』という表題は、非常に良くできていると思う。最後に「落とす」この手のパターンの作品は数多く読んできているが、それでも『半落ち』という表題が、実によく作品を言い表している。何しろ「半落ち」なのだ、梶も私も。ずっと「半落ち」のまま物語が進行する。
 作品は、アルツハイマー病の妻を嘱託により殺害した現職警官(梶聡一郎)を巡る物語。妻を殺害した2日後、梶は自首をする。しかし、殺害後自首するまでの2日間、彼が一体どこで何をしていたのか、梶自身は頑なに供述を拒む。そしてこの2日間が、周囲を巻き込んだ騒動となる。
 その進行はバトンリレーの形式だ。
 最初は、取り調べに当たった志木和正。続けて、検事の佐瀬銛男。記者の中尾洋平。弁護士の植村学。判事の藤林圭吾。最後に、刑務官の古賀誠司。
 時間軸の進行するなか、それぞれが、それぞれの立場から梶聡一郎を眺め、評価する。作中「ベルトコンベアー」という表現が登場するが、まさに、そのベルトコンベアーに乗って、その時その場にいるべき人間によって、梶が語られる。その構成は見事だと思った。加えてそれぞれの立場を代表する人間が抱える闇への言及。脱帽である。
 けれども、と付け加えるならば、どうにも最後の10ページ以外は面白みに欠けるのが悲しい。どうにもレトリックと知識を駆使して作文しました、という感がある。新聞の記事を読んでいるような感覚だ。だから、読者の私はずっと半落ちのまま、「うーむ」とページを捲ることになる。
 しかしまあ、最後で落とされたわけだし、まぁ、いいのか。

「誰のために生きているか」
 問いかけられたら戸惑うだろうな、私は。
 誰のために? そもそも、自分のために生きている、とさえ胸を張って答えられない。
 それだったら何のために生きているのだろう。私は。
 答えがないのだな、今のところは。
 ただ何となく生きている。そんな毎日なのだから。
スポンサーサイト



この記事のURL | | CM(0) | TB(0) | ▲ top
麦の海に沈む果実
2006/11/23(Thu)
作者:恩田陸

 北海道のとある湿地の上に築かれた謎の学園を巡る物語。
 主人公の理瀬は、普通であればありえない時期にその学園に転入し、生徒の失踪、殺人事件に巻き込まれる。そして、最後に「自分を取り戻す」。

 最初のページで、この人肩に力を入れて書いているな、と思った。
 真ん中ぐらいで、展開が見えてしまった。
 最後の瞬間に不愉快になった。
 私の読んでいる『麦の海に沈む果実』を見て、どうちゃんが
「問題の恩田陸ね」
 と言う。全く詳しくないので、
「この人すごいの?」
 と返したら、どうちゃんは、
「ま、いろいろね」
 と。
 どう問題なのかわからないけれども、私はこの人が苦手だと思う。この人は受け入れられない。何かが消化不良。
 サスペンス?
 ファンタジー?
 中途半端な気がする。ストーリーの所々に散りばめられた鍵が、扉を開けることなく放り出されているような気がする。
 だから、不愉快。
 小説の文面はわかりやすいし、読みやすい。理解できなかったわけでもなく、面白いとも思う。実際に小説自体は面白い。
 けれども、何かがおかしい。
 サリンジャーを読んだときもこんな気分になったのだけれども、なんかね、消化不良。
この記事のURL | | CM(2) | TB(1) | ▲ top
新たなる春 始まりの書 上 NEW SPRING
2006/11/25(Sat)
時の車輪外伝
作者: ロバート・ジョーダン Robert Jordan
訳者: 斉藤伯好

 『麦の海に沈む果実』もそうだったが、これまた入社前に買っておきながら、今の今まで放置していた本。ようやく読んだ。
 この本を購入する少し前に、『伝説は永遠とわに③』を購入して読んでいる。何故かというと、『新たなる春』が短編として収録されていて、しかも「若かりしラン様が活躍なさる!」ということだったので。ラン様贔屓の私としては、これは「読むしかないでしょう」と買った。(ラン様目当てだったので、結局他の短編は読んでいない)
 さて、本書『新たなる春 始まりの書』(上下巻)は、『伝説は永遠とわに③』に収録された同名の短編を長編に直したもの。(だと思う。)
 舞台はアイール戦争の末期。候補生のモイレインとシウアンは、偶然にも記録管理者ジタラが<竜王の再来>を予言する場に居合わせる。そして、<竜王の再来>を探す旅を決意したモイレインは、見事に昇格試験に合格し、めでたく異能者アエズ・セダーイとなる。
 上巻はここで終わってしまうのだが、この辺りのシーンは短編にはなかったもの。短編はラン様とモイレインが出会うところからだし。ただし、「ラン様命!」の私としては、モイレインばっかり目立っているのでちっとも面白くありませぬ! 下巻に期待だな。
 内容はもう、目新しさ無し。
 時シャリの1ファンとして楽しめるものの、知らずに読んだら面白くないこと間違いない。自分も、惰性で読んでいる気がしないでもない。外伝よりも正編の方が面白いということかもしれないが。
 ま、モイレインを池に放り投げるラン様が下巻ではお目にかかれるはずなので、とりあえず下巻に感想はお預けにしましょうか。モイレインがどうやって、女王にさせられそうになるのを回避したのか、そのあたりも気になるところです。
 それにしても、どうしてシウアンはアミルリン位になった際にモイレインを記録管理者にしなかったのだろう。こんなに仲がいいのに。フシギだなあ。
この記事のURL | | CM(0) | TB(2) | ▲ top
| メイン | 次ページ